月刊サイクルビジネス 「24時間、無人でレンタル電動アシスト自転車を管理 」 2008.07.17

月刊サイクルビジネス臨時増刊号「電動自転車特集」(株式会社グローバル:2008年7月10日発行)に電動自転車貸出システム「フレンツ」が紹介されました。

環境志向が強まる昨今、「電動アシスト自転車を同じマンションの住人でシェアして使おう」という発想で管理運営するシステムがある。マンションなどで宅配の荷物などを預かるロッカーシステムを開発している(株)フルタイムシステムが運営するF-rentsだ。

これも、電動アシスト自転車のレンタルビジネスのひとつだが、特定居住者へのサービスインフラで三井不動産などの大手デベロッパーなどをターゲットに展開。「B to B to C」のひとつと言えよう。

宅配ロッカーシステムでの顧客管理術を活用

今回紹介する、電動アシスト自転車を活用したビジネスは、F-rents(フレンツ)。レンタルの電動アシスト自転車を無人で24時間管理するシステムで、これを導入している集合住宅の住民は、必要に応じて電動アシスト車をレンタルできる。

きちんと管理された電動アシスト自転車を住民同士がシェアして利用するというものだ。昨今のガソリン代の高騰や道路交通法の改正などによってクルマやバイクが使いにくい状況が生まれており、需要は大いに高まっている。

また、マンションなどを開発するデベロッパーにとっても、居住者サービスとして大きな付加価値を持つ。本格的に事業をスタートしたのは約2年前だが、現在既に30マンション、300台のパナソニック製電動自転車を導入するまでに拡大している。

倍々ゲームの勢いで伸びている。今期はさらに3倍に膨らむ可能性もあるという。このシステムを開発、運営しているのは(株)フルタイムシステム(原幸一郎社長)。

同社はマンションなどで宅配の荷物などを預かる24時間対応のロッカーシステムを開発し、急成長を遂げてきた。現在では日本全国で1万5000棟がこの宅配ロッカー・宅配ボックスを導入している。

また、クリーニングや写真現像の受け取りサービス、専用のロッカーで商品をまとめて受け取ることができる日用品のネット販売など様々な関連ビジネスも展開。

電動アシスト車の貸し出しシステムであるF-rentsも、同社が展開するそうしたビジネスのひとつだ。F-rentsがどういう経緯で誕生したのか、同社の原周平副社長に伺った。

「弊社の基幹事業はマンションなどの居住者が不在時に受け取れる24時間対応のロッカーで、言わば居住者の代理というか、窓口の役割を担っています。それで、居住者が求める様々なサービスインフラの開発、提供が常に課題としてあるわけです。

そんな中で、ちょうど今から8年位前に、かつて電動自転車を製造していた本田技研工業と三井不動産が組んで、電動自転車のレンタルサービスを始めた。ただ、メーカーである本田技研工業には、貸し出しの運営、アフターフォロー、利用者を管理するノウハウがない。

そこで、私どもが手を上げさせてもらったのです。もともと私どもは、遠隔操作で集中管理を行うコントロールセンター、コールセンターをもち、24時間態勢で、顧客とコミュニケーションと取れるしくみを構築していました。

私どものロッカーにはセンター直通の電話がついているので、お客様の状況がリアルタイムでわかるのです。そうした顧客管理のノウハウを基盤にスタートしたわけです。」

こうした契機でスタートしたF-rents。環境志向やシェアリング思想が少しずつ高まる時流と歩調を合わせるように広がりつつあるようだ。さらに最近ではファッションとして電動アシスト自転車を捉える女性も増えてきている。

「キャナリーゼ」(東京臨海部の高層タワーマンションなどに居住する女性。東京の白金台の「シロガネーゼ」にあやかって言うようだ)の間では、大きなツバのある帽子を被り、電動自転車に乗って豊洲のショッピングセンターにいくのがトレンドになりつつあるという。

いずれにしても、電動車は高齢者のための乗り物という認識は変わりつつある。そして、レンタルの良さは、いつもきれいできちんとメンテナンスされており、それを自分でせずに済むことだ。

居住者の中には、一度レンタルの電動車を使用すると、あまりにも快適で面倒がないので、自分で所有している普通の自転車にはほとんど乗らなくなったというケースもある。

人間の肉声での対応が利用者の安心感に

現在、自転車の需要拡大のキーワードは、「乗る楽しさ」「健康」「環境」などだが、F-rentsが支持されているのは、スポーツ遊びというよりもむしろ日常生活における快適性の向上だろう。

つまり近距離の移動手段として電動車が評価されているわけだ。このように充実した移動手段であることが、乗る楽しさや健康、環境志向に自然に繋がっていくことを理解する必要がある。

優れた移動手段であると同時に、おしゃれを楽しむとか、CO2を排出しないとか、ダイエットにもなると言うような福音をもたらしてくれるのだ。

同社の電動自転車の設置台数は、おおよそ世帯数の8~10%だ。300世帯のマンションならば、24~30台。同社では、利用状況をデータ化しているが、多いところでも世帯の10%程度だそうだ。具体的な貸し出しのシステムを解説しよう。

まず、自転車を借りようとするときに、専用のPCサイトで利用状況を見ることができる。例えば30階の居住者は自分の部屋にいながら、使用できる自転車があるかどうかわかる。

ケータイでも対応しているので、どこからでも確認することができるのだ。自転車の貸し出し場所に行くと、専用ボックスがあり専用カードを差し込みパネル操作を行う。

ボックスから自転車のキーとバッテリーを取り出し、それを指定の電動自転車に持っていき使うことになる。自転車は最も過去に返却された、つまり充電が確実に完了している自転車から貸し出すしくみになっているという。

返却も必ず自転車のキーとバッテリーをセットで行うようになっており、返却と同時にバッテリーの充電が始まる。

「ただ、こうしたパネル操作に不慣れな方も必ずいらっしゃるので、操作パネルには必ずオレンジ色の「TEL」を設置。これは、F-rentsだけではなく、当社のロッカーシステムの特徴ですが、必ず人間の肉声で対応するしくみを持たせています。

これがないと使わないという方は多いはず。パネル操作での文字の指示や電子音声だけでは不安な人は多いですよね」(原副社長)

現在は、三井不動産だけではなく、野村不動産、大京観光などの大形マンションを手がける大手デベロッパーの多くが、このシェアリングシステムに興味を持っているそうだ。

同社では電動自転車だけではなく、工具やカートと言ったシェアリングが可能な商品のレンタルシステムの開発にも着手。共有できるモノは共有し、経費削減につなげようという思いは誰にもあるはず。そのニーズを掬い取る同社の嗅覚は非常に優れている。

「弊社の一番の強みは、24時間体制のコールセンターに寄せられた顧客の声をベースに商品、サービス開発を行っていることだと思います。極端な言い方をすれば、お客様のクレームや苦情が私達のサービス向上に貢献してくれているということ。

F-rentsもそういう声でどんどん進化していくわけです。例えば、利用状況を事前に知らせるしくみもお客様の声から生まれたもの。ロッカーシステムで培ってきたコントロール技術とコミュニケーション技術が、すべての土台ではないでしょうか。

ポイントは、すべてをコンピュータにまかせるのではなく、人間の肉声というアナログの部分を必ず残しておくこと。」(原副社長)現在は、ほとんどが大型マンションなどの集合住宅に導入しているが、今後は、商業ビルへの導入も考えているという。

「繁華街などのビルでは、駐輪スペースが少なくて困ってますよね。ただ仕事で自転車を使う会社は多いわけです。駐輪スペースがない場合は、自転車をオフィスまで持ち込んで保管している企業もあります。

エレベータの中でケガをしたというようなケースもあります。そういう企業にとって、共有できる電動アシスト車があるというのは、大きな魅力のはず。実際にF-rentsを導入いただくことが決定した商業ビルも既にあります。

大型オフィスビルでもありますよ。今では、クルマやバイクで営業活動がをしていた企業にとって、ガソリン高騰と道交法改正は非常に大きな問題です。その改善策としての電動自転車の共有システムですね。

ある程度の規模を持つ企業ならば1社で購入できるでしょうが、小さな企業では難しい。だから、必要な時だけ使用し、修理・メンテナンスも不要で、コスト削減にも繋がるシステムに興味をもっていただける。ビジネス需要も確実に高まっていますね。ビジネスホテルからも問い合わせがありますよ。」(原副社長)

マンションでも現状では大半が分譲マンションだが、今後は賃貸マンションにも積極的にアピールしていくという。居住者にとって、あるいはテナント企業にとって、電動自転車を必要な時に、効率的にベストの状態で使えるというのは大きな魅力だ。